1.はじめに
この記事ではこれからの時代を生き抜くために「美意識」をどうやって鍛えれば良いのか、「美意識」を鍛えたらどうなるのか、というテーマについてお話ししていきます。
なぜ「美意識」を鍛えることが必要なのか、という事については前の記事で紹介した内容になりますのでそちらをご覧いただければと思います。
※前の記事を読まなくても分かるように書いていきますが、読んでいただいたほうが理解はしやすいと思います。
この記事では前回の記事と同様に山口周さんの著書である「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」(光文社)の内容を参考にして書かせていただくので、詳しく知りたい方は本を読んでみてください。
2.なぜ「美意識」なのか
なぜ「美意識」が必要になるのか。
これについては前の記事でお話した内容ですが、この記事だけを読んでも話が理解できるように要点を3つに絞って簡単に書いておきます。
1つ目は、いまの、そしてこれからの社会がどんどん複雑化していくことで、これまで多くの企業で重視されてきた「論理的」な思考や分析では判断ができない問題が増えていくため、意志決定をするためには自分の感性という「美意識」に従う必要がある点です。
2つ目は、市場が成熟していくに従って消費者が求めるモノが「機能」から「情緒性」、「自己実現」というように変化していくためです。消費者の「自己実現的な欲求」を満たすためには「美意識」が重要になります。
3つ目は、社会の変化に法整備が追い付かなくなっている点です。「法律に反していないから」という理由で倫理に反する行動をとっていると、法律が整備された後に後出しジャンケンのように違法とされてしまう可能性があるのです。つまり、自分を守るためには法律ではなく自分の中の「美意識」(=倫理観)に従って行動をする必要があるのです。
3.アート(美意識)とサイエンス(論理)の両方が必要
ミシガン州立大学の研究チームが発表した研究に、「アート」と「サイエンス」が個人の中で両立する場合、その人の知的パフォーマンスも向上する、というものがあります。
「ノーベル賞受賞者」、「ロイヤルアカデミーの科学者」、「ナショナルソサエティの科学者」、「一般科学者」、「一般人」の5グループに分けた場合、ノーベル賞受賞者は一般人と比べて2.8倍も芸術的な趣味を持っている人が多かったのです。
また、ロイヤルアカデミーとナショナルソサエティは高レベルの実績がないと入れない組織らしいのですが、それらに所属する科学者も一般人の1.8倍も多くの人が芸術的な趣味を持っていたそうです。
一方で、一般科学者と一般人では芸術的な趣味を持っている人の割合は同じであり、「サイエンス」と「アート」の両方の趣味を持っていることが、高い水準での知的な活動が可能にしている可能性が示されました。
4.美意識の鍛え方
では、「美意識」はどうやって鍛えればいいのでしょうか?
いくつかの方法について紹介していきます。
4-1.絵画を見る
エール大学の研究チームは、絵画を見ることで観察力が向上するという研究を発表しています。アートを用いた視覚トレーニングを医大生に行うことで、皮膚科の疾病に関する診断能力が56%も向上したそうです。
トレーニングとして多くのグローバル企業やアートスクールで実施されている方法に、VTS(Visual Thinking Strategy)があります。
これは、簡単に言えば「作品を見て、感じて、言葉にする」というトレーニングで、絵画などの芸術作品を見ながら、
1.何が描かれているか?
2.絵の中で何が起きていて、これから何が起こるのか?
3.どのような感情や感覚が、自分の中に生まれているか?
というような質問に対して参加者同士で意見を交換していきます。
これにより、最初に見たときの印象とまったく違った絵が目の前に現れることを実感することができ、「見る」という能力を高めることにつながります。
4-2.哲学に親しむ
欧米の名門校では、理系文系問わず「哲学」が必修科目になっていることをご存じでしょうか?
哲学は「常識を疑うこと」から始まります。
これまで当たり前だと思っていたことに対して、「本当にそうなのか?」と考えることが「哲学をする」という事なのです。
哲学を学ぶ事で「無批判にシステムを受け入れる」という事がなくなり、それまでの常識だったシステムに対して疑問を持つ事ができるようになるため、現状の社会に最適な形に改変していくことができるようになります。
哲学を学ぶ上で注意しなければならないのは、どう考えたのかという「考える過程」が大切になるため、「要するに何を言っているのか」という要点だけを読んでもあまり意味がないという事です。
4-3.文学を読む
自分にとっての「美意識」(真・善・美)を考えるために、文学作品を読むことは最も有効なエクササイズです。
例えば、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教の幹部には高学歴のエリートがたくさんいたそうですが、そういった人たちに共通しているのが「文学に親しんだ経験がない」という事だったそうです。
「文学を読む」という事は登場人物たちの生活や生き様について考え、共感する事であり、そして登場人物たちの思考や行動を通して、社会が抱える問題について考えるきっかけにもなると思います。
そのため、文学を読むことは自分のアンテナの感度を高めることにつながるのです。
4-4.詩を読む
私も含めてですが、多くのビジネスマンにとって「詩」というのは縁遠いモノなのではないかと思います。
ただ、リーダーシップと「詩」には共通点があります。
それは、両者とも「レトリックが命である」という点です。
レトリックというのは巧みな表現技法のことですが、これを学ぶためには詩を読んで「メタファー(比喩)の引き出し」を増やすことが大切です。
レトリックはメッセージを伝達するために非常に重要な技術であり、リーダーに必要な「人の心を動かす」能力にも繋がります。
5.おわりに
ここまで、「美意識を鍛える」というテーマでお話してきましたが、どんな方法でトレーニングしたとしてもすぐに成果が出るようなものではないし、すぐに役立つ類のものでもありません。
しかし、慶應義塾の塾長として昭和天皇の家庭教師も務めた小泉信三氏が「すぐに役立つ知識はすぐに役立たなくなる」という言葉で基礎教養の重要性を訴えていたように、芸術や哲学などを通して「美意識」を磨くことがこれからの時代を生き抜くための力になると思います。
それではここまで記事を読んでいただきありがとうございました。
記事の内容に興味を持っていただけたなら、自分自身でこの本を読んでみることをお勧めします。